原稿を待つ間に間に

先日著者のところへ原稿受け取りに行ったとき、原稿確認を終えて世間話に流れていった。けっしてわたしはヒマではなかったし、著者のオフィスはちょっとした小旅行ほどの距離があるので、できれば早めに引き上げたかったのだが。また、うっかりしていると壮大なドリームを延々と語り始めるきらいがあるので、軽いネタでササッと退散しようと思った。
「友人が海外で働きたいって云ってるんですけど、なにかアテがありませんか?」
「ニューヨークの近くで友人が美容サロンを始めてこれが大繁盛。そこでアシスタントを募集してましたよ」
「ええぇ、ニューヨークですか。アシスタントって何するんですかね?」
「洗髪したりパーマかけたりするんでしょうね」
「ええぇ、それは未経験者でもオッケーなんでしょうか」
「いやぁ、経験者でしょう」
「そうですか……」
「ま、ニューヨークって云ってもニュージャージー州ですがね(あはは)」
「(しばし沈黙)ほかにありませんか?」
「バリ島でスキューバダイビングの免許を取るツアーを企画して大成功した友人がいます」
「ええぇ、バリ島ですか。南国ですかぁ〜〜」
「そこで日本人向けのツアーコンダクターを募集してましたよ」
「えー、でもバリ語は話せませんが」
「ん〜、大丈夫大丈夫。日本語と英語さえできれば」
「はあ、スキューバの免許を持ってないんですけど大丈夫でしょうか」
「大丈夫でしょう。向こうに行ってとればいいんだから。泳げりゃ平気ですよ」
「そうですか……わたし、泳げないからダメですね」
「あなたが行くんですか!?」
「あ、ちょっと今それもいいかな〜って思ったもんで」
「あなたが行くんなら、アメリカ西海岸でリサーチャーっていう募集もありますよ」
「……なにをリサーチするんでしょうか」
「さあ、なんでしょうね」
糸冬
……もう壮大なドリーム話は絶対聞かないと固く誓って原稿を小脇に抱えて立ち去った。振るネタまちがえたかな