ヂンギス!

会社が移転してから3年ほど経ったとき、ランチの行き先がヘビーローテに入ってしまい、いままであえて足を踏み入れずにいた店に同僚と行った。店の名前はHと云ったな、たしか。夜はスナックで、最近ちょっとランチも始めてみましたというインスタントな感じがランチメニューのマジックの手書き文字からにじみ出ていた。店に入ると暗く湿っぽく、ソファーの上に使い古されてぺちゃんこになった花柄の手製のクッション(というか座布団)が敷いてあり、うわっ、、、と声に出ちゃいそうな驚きがあった。奥からひょっこりオジサンが狩りにでも行くような格好で出てきたときには異空間に紛れ込んだような気さえした。すでにこのとき「失敗したかも」と思ったが、店に入った手前あからさまに出るわけにもいかず、比較的明るい場所に腰を下ろして注文をした。メニューは4つしかなく、そのうちの失敗がなさそうなものを頼んだ。同僚は納豆定食、わたしはハムエッグ定食(目玉焼きに妙な昂ぶりを感じたのだ)。奥でガチャーンと不吉な音がしたものの、しばらくすると同僚の目の前に納豆・白飯・みそ汁、だけの名実ともに納豆定食が出てきた。わたしのはハムエッグ・白飯・みそ汁、納豆(!)がお盆に乗っかっていた。うひゃひゃひゃ、声を殺して苦笑い。なんだハムエッグのほうがお得じゃん、お値段一緒だよ。ふつう、こういうときって小鉢がついてこない? 同僚と目で会話するが、もうわかったこの店には来ないよね、と暗黙の了解のもと黙々と食べ始めた矢先、突然座っていたソファーのまわりで小さな黒い影が動いた。はじめ店内の暗さにソファーにゴミ(か汚れか)がついているのかと思ったら、なんてことはない五木さん*1だった。総勢5つほどの黒い影が右往左往しているかのように動く。もう悠長にゴハン食べてる場合じゃないよ、一刻も早く店を出よう! ……そして3カ月後、店はお亡くなりになっていた。とまあ、こんな話も昔話。Hの跡地はしばらくテナント募集中だったのだけど、ついに今日新しいお店がオープンするようだ。それが仔羊料理店らしいので、ちょっと興味爛爛(でもランチはないよ)

*1:ゴキブリ